FAQ 助産師・看護師による妊婦への服薬指導(山内愛) | 2010年


国内では, 梅毒合併妊婦が増えた結果, 先天梅毒も増えている()。2013年までは先天梅毒児の届出数は年間10名以下であった。それまでは何十年もその状態が続いていた。しかし, 2014年から徐々に増え始め, 2019年には23名となり, その後20人台で高止まりの状態である。先天梅毒の発生数は, 梅毒流行期に入る前の10倍近くとなっている。


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母子感染予防として梅毒合併妊婦に対して, ベンジルペニシリンベンザチン筋注製剤(BPG)が世界保健機関(WHO)および米国疾病予防管理センター(CDC)で推奨されている唯一のレジメンである。その根拠となった論文では, 梅毒合併妊婦コホートに対して早期梅毒に1回, 後期梅毒に1週間間隔で3回のBPGを投与し, 先天梅毒症例の98.2%(早期梅毒97.1%, 潜伏期間不明の梅毒を含む後期梅毒100%)を予防したと報告している2)

一方, 歴史的に経口ペニシリン製剤のみを用いてきた日本では, 日本産科婦人科学会を中心としたチームで, 経口ペニシリン製剤による母子感染予防効果を調査した3)。80例の梅毒合併妊婦コホートの内訳は, 早期梅毒39%, 後期梅毒61%であり, アモキシシリン(AMPC)もしくはアンピシリン(ABPC)の内服期間は中央値60日であった。80例のうち, データ欠損を除いた71例中, 母子感染例は15例(21%)(生産・先天梅毒13例, 死産1例, 流産1例)であった。

ペニシリン系抗生物質(アモキシシリンなど); セフェム系抗生物質(セファレキシンなど); エリスロマイシン; アジスロマイシン

妊婦の母体が感染する時期は, 妊娠週数の何週でも母子感染し得る。また妊婦が梅毒に感染する時期は, 妊娠中とは限らない。妊娠前から感染している妊婦では母子感染のリスクが高い。再感染の場合でも母子感染のリスクがある。

世界的な梅毒患者の増加に伴い,妊娠期の梅毒,先天梅毒も急増している.2022年より世界的な梅毒標準治療薬であるベンジルペニシリンベンザチン(BPB)持続筋注製剤が,本邦でも使用可能となった.しかし,妊婦において,これまで使用されてきたアモキシシリン(AMPC)内服治療といずれを選択すべきか明確な指針がない.また,治療終了の基準も明確ではない.今回我々はAMPC内服後にBPB筋注を追加した妊娠期梅毒の一例を経験した.症例は34歳6妊1産.妊娠18週に感染時期不明の潜伏梅毒と診断した.AMPC1,500 mg/日を4週間内服し,母体のRPR値は54.3 R.U.から9.5 R.U.まで低下した.しかし,近年の報告によれば,RPR値が低下した母体からも先天梅毒が発生している.感染症を専門とする医師の意見を求めたところ,BPB持続筋注製剤による追加治療が提案された.本人同意を得て,妊娠31週でBPB240万単位の単回筋注を行った.副反応を認めず,妊娠経過を通じて胎児に異常所見は認めなかった.妊娠39週2日,経腟分娩により女児を娩出した.児のRPRは陰性であり,生後7か月まで先天梅毒を疑う所見を認めていない.本症例の治療方針の正当性につき検討し,今後同様の妊娠期梅毒の症例に対してどう対応すべきか,文献的考察を加えて報告する.

妊婦では、選んではいけない薬が存在する。 アドヒアランスにも注意して ..

西島, 川名らは, 経口アモキシシリンまたはアンピシリンによる妊婦梅毒の治療に関して全国的な多施設後ろ向き研究を実施し, 活動性妊婦梅毒80人のうち, 21%が先天梅毒をきたしたことを報告している12)。妊婦梅毒早期26例では, 先天梅毒症例率は0%で, 妊婦梅毒後期45例では, 先天梅毒症例率は33%であった。少なくとも出産の60日前に治療を開始した57人の妊婦梅毒患者のうち, 先天梅毒発生率は14%であった。この研究により, 経口アモキシシリンまたはアンピシリンは, 妊婦梅毒後期では先天梅毒発生を予防するのに効果的ではなかったが, 妊婦梅毒早期では先天梅毒発生をある程度予防できた可能性があることが明らかになった。これらのことから, 先天梅毒予防のために, 日本でも注射用ベンザチンペニシリンG筋注(単回)の早期の臨床再導入が強く望まれる。

15例の母子感染例のうち, 8例は妊娠20週以前, 7例は20週以降であったことから, 母子感染の有無と妊娠週数は関連がなかった。母子感染例の約半数は, 妊娠12週の妊娠初期スクリーニングによる梅毒抗体検査で発見されており, 初期スクリーニングで発見され治療されても母子感染を防げなかったことになる。

妊娠中:要相談(出産予定日12週以内の妊婦は不可) 授乳中:不可

梅毒感染妊婦が無治療の場合には, 40%におよぶ児が死産または新生児期に死亡する可能性がある4)ということから, 経口ペニシリン製剤による母子感染予防は一定の効果があることが分かった。しかし, 経口ペニシリン製剤を十分量妊婦に内服治療しても14%で母子感染が成立してしまう結果であった。世界標準であるBPG筋注が日本でも使用できるようになったので, 経口ペニシリン製剤からBPG筋注にシフトする必要があるかもしれない。ただし, 梅毒治療開始後24時間以内に起こり得る, 頭痛, 筋肉痛, 発熱を頻繁にともなう急性の発熱反応が発症するJarisch-Herxheimer反応に注意が必要である。妊婦はJarisch-Herxheimerのリスク因子であり, 40-50%で起こるともいわれている。この反応が起こると, 母体内でサイトカインストームのような状態が起こり, 切迫早産兆候や胎児機能不全(いわゆる胎児仮死)が起こり得る。妊婦の梅毒治療では入院下での加療が望ましいと考えている。

日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の「産婦人科診療ガイドライン-産科外来編2017-」11)には, ①妊娠初期に病原菌であるT. pallidumと交叉抗原性を有する脂質, カルジオリピンを抗原とする非特異的検査(STS: serological test for syphilis)と, T. pallidumそのものを抗原とする特異的検査(TPHA法, FTA-ABS法のうち1法)を組み合わせてスクリーニングを行う, ②妊婦で感染があったと判断された症例では, 病期分類を行い, 治療不要と考えられる陳旧性梅毒と明らかに診断される例や治療歴がありSTS法抗体価8倍以下かつ特異的検査法陽性例以外は速やかにペニシリンを中心とした抗菌薬投与を行う, ③抗菌薬治療を行った妊婦では妊娠28~32週と分娩時にSTS法を行い, 治療効果を判定する, ④抗菌薬治療を行った妊婦では妊娠中期に超音波検査を行い, 胎児肝腫大, 胎児腹水, 胎児水腫, 胎盤の肥厚の有無を確認することが示されている。


アモキシシリンとは アモキシシリン(アモキシシリン水和物) ..

注射用ベンザチンペニシリンG筋注(単回投与)は, WHOガイドライン3)および米国疾病管理予防センター(CDC)ガイドライン4)で推奨されている先天梅毒の予防のための母体梅毒治療の唯一のレジメンであり, 現時点で代替レジメンを推奨するのに十分な証拠はない。母体梅毒の代替治療に関する系統的レビューでは, 注射用ベンザチンペニシリンG筋注以外のレジメンで治療された21人の梅毒妊婦が特定されている5)。エリスロマイシンとアジスロマイシンは胎盤関門を通過しないため, 胎児の治療はできない5)。さらに, Treponema pallidumに対するマクロライド耐性が多くの国から報告されている6)。薬理学的にも添付文書上もテトラサイクリンとドキシサイクリンは妊娠第2期と第3期では禁忌である。また, 母体梅毒の治療と先天梅毒の予防目的でセフトリアキソンを推奨するにはデータが不十分である4,7)。日本では, 2020年1月現在, 注射用ベンザチンペニシリンGが使用できないことから, アモキシシリンやアンピシリンなどの経口ペニシリン薬が妊婦梅毒の治療に用いられてきた。妊婦梅毒治療と先天梅毒予防においてこれらのレジメンの有効性は報告されていないが, 高用量アモキシシリン(6g/日)とプロベネシド(1g/日), 14日間投与で治療に成功した妊婦の報告は存在する8)。アモキシシリンやアンピシリンによる治療レジメンは, 日本性感染症学会の「性感染症 診断・治療ガイドライン2016」9), 「日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編2017-」10)にも記載されている。これらのガイドラインでは, 梅毒治療は, 経口アモキシシリンまたはアンピシリン1,500mg(1日3回500mgの投与)連日投与を第一選択とし, 第1期は2~4週間, 第2期では4~8週間, 第3期以降では8~12週間を必要とすると記載されている。また, 無症候梅毒では, カルジオリピンを抗原とする検査で抗体価が16倍以上を示す症例は治療することが望ましいと記載がある。投与期間は, 感染時期を推定し, その期の梅毒に準じるが感染後1年以上経過している場合や, 感染時期の不明な場合には, 8~12週間とすることも記載されている9,10)

今回は妊婦・授乳婦への抗菌薬処方の際のポイント・ピットフォールについて勉強します。 □CASE

妊娠中に使用可能な抗生物質と鎮痛剤については、医師と相談して正確な情報を得ることが重要で、一般的なガイドラインを示しますが、個々の状況に応じて医師の指示に従う必要があります。

アモキシシリン(抗生剤)とカロナールの飲み合わせは可能です。ただしカロナールも ..

梅毒合併妊婦では, いわゆるTORCH症候群の「O(Others)」として先天梅毒のリスクがある。妊婦が感染していると胎盤を介して胎内感染し, 胎児への影響と, 出生児に先天異常を発症する。この垂直感染は後期梅毒でも起こり得る点が性行為感染(水平感染)と異なる。

アモキシシリンの効果は?使用上の注意や飲み合わせについても解説

妊娠中は、抗生物質の使用を避けることが望ましい場合もありますが、特定の症状や感染症の重症度によっては、医師の監視下で使用する場合があります。一般的に、妊娠中に使用が比較的安全とされている抗生物質には、以下のものが含まれます:

妊娠中や妊娠している可能性がある方は、医師が必要と判断した場合のみ使用でき ..

妊娠中の鎮痛薬についても、慎重に選択する必要があり、特に初期の妊娠段階では、薬物の使用を避けることが推奨されることがあります。妊娠中に一般的に使用が安全とされている鎮痛薬には、以下のものがあります:

アモキシシリン水和物として、通常1回250mg(力価)を1日3~4回経口服用 ..

この実態調査から, 梅毒合併妊婦の特徴が推定された。梅毒合併妊婦のうち, 1/4は妊婦健診の未受診・不定期受診妊婦であった。これらの妊婦は妊娠初期スクリーニング検査が抜けてしまい, 治療開始が遅れていた。また母体年齢は, 10~20代が70%を占め, 若年妊婦が多い。このような妊婦(社会的ハイリスク妊婦とオーバーラップする)は, 梅毒合併のリスクも高いことがうかがえる。梅毒合併妊婦のうち, 有症状は10%のみであり, 90%は検査によって判明していることから, 妊娠4カ月で全妊婦に対して, 公費で実施される妊婦健診の初期スクリーニング検査における梅毒抗体検査で発見されていることがうかがえる。感染症発生動向調査の届出項目の中に妊婦の記載が含まれるようになった2019年以降, この4年間は毎年200名強の梅毒合併妊婦が報告され続けている。

6.3 妊娠中や授乳中は服用できる? 7 葛根湯の飲み合わせに注意して正しく服用しよう

一方で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やオピオイド系鎮痛剤は、妊娠中には慎重に使用する必要があり、特にNSAIDs(ロキソニン等)は、胎児の成長に影響を及ぼす可能性があるため、医師の指導に従う必要があります。最終的な判断は医師に任せるべきで、妊娠中にどの薬剤を使用するかについては、医師との綿密な相談が必要となります。

妊娠中に服用可能な薬剤は? ―抗生剤・抗ウイルス薬・消炎鎮痛剤

日本産科婦人科学会の女性ヘルスケア委員会内の感染症実態調査委員会で実施した全国調査「性感染症による母子感染と周産期異常に関する実態調査」では, 年間14万分娩をカバーしている地域中核病院へのアンケート調査において, 2012~2016年の5年間に166例の梅毒合併妊婦が報告され, 20例の先天梅毒が発生していた1)

以前のコラムで、「抗インフルエンザ薬は、妊婦さんでも使用できる」とお伝えしましたが、今回は他の薬剤についてもお話したいと思います。

妊娠・授乳中の服薬については,さまざまな研究・調査からリスクとベネフィットを考え,治療上必要なものは継続することが多くみられます。しかし一般の方には,胎児の催奇形性や胎児毒性のために妊娠中の服薬は良くないという考えも根強くあるのが現状です。今回は,妊娠中に遭遇する疾患と薬の使用について,助産師・看護師としてどのように対応したらよいのか考えていきましょう。

サワシリンは妊娠中および妊娠している可能性のある方、現在授乳中の方であっても使用可能です。

妊娠16週の妊婦から薬の使用について以下のような質問を受けました。どのように答えたらよいでしょうか。「薬を飲むことは,妊娠中は赤ちゃんの奇形の心配があるからいけないのですよね。これからの季節,風邪もひきやすいし心配です」

増加している1).梅毒とは梅毒トレポネーマ(Treponema

梅毒は, 世界中で現在流行している。国内では2022年に梅毒感染者数が, 1999年4月に感染症法上の5類感染症の全数把握対象疾患に定められて以来初となる10,000人を突破した。2012年まではMSM(men who have sex with men)の中でわずかにみられていた梅毒が, 2013年以降では, 女性感染者が急増した。女性感染者の3/4は20~30代であり, 若年層が中心である。さらに, 母子感染症である先天梅毒が増加している。梅毒合併妊婦は年間200例を超え, 先天梅毒は2012年まで年間数例であったものが今では年間20例を超えている。